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予測誤差に基づく安全在庫の算出方法

需要予測と需要実績の差に着目した安全在庫の算出方法を解説します。この記事は在庫管理・発注業務を担当している方で、標準偏差と安全係数を用いた従来の安全在庫設定が大きすぎると感じている方を読者に想定しています。

目次

予測誤差に基づく安全在庫の算出方法

この記事ではまず、予測誤差とは何を指すのかを明確にした上で、安全在庫の概念について認識を揃えます。その後、安全在庫の具体的な計算方法と、実務で使えるエクセルの設計までを解説します。なお、従来の安全在庫の考え方を理解したい方は、まず、 安全在庫|一般的な考え方と予測誤差に基づく考え方の違いをご参照頂ければと思います。

この記事では、従来の安全在庫は本質をとらえておらず、予測誤差に基づく安全在庫を採用すべき、と言う立場を取ります。

予測誤差の概念

まず、予測誤差とは何を指すのかを明確にします。予測誤差とは需要予測と実際の需要実績の差を意味します。需要実績は在庫がある場合は出庫数(払い出し数量)と一致します。しかし、欠品になった場合は在庫がなくなっているので出庫数を超える数の需要があったことになります。受注伝票が保管できる環境の場合は受注数を需要実績とします。

店舗販売において欠品になり、正確な需要実績の数量が把握できない場合は、欠品になった時刻からその日の需要実績を推測する次善策を取りましょう。そうしないと、供給数量を需要実績とした場合、欠品があると需要が実際の需要より小さく算出されてしまい、誤った結論を導いてしまうためです。

こうして求めた需要実績と予め立てておいた需要予測を比較することで予測誤差を求めることができます。実際にエクセルを使って求めると下のようになります。

需要予測数・需要実績数・予測誤差の集計を行うとこのようになる
需要予測数・需要実績数・予測誤差の集計サンプル

このサンプルでは1行目に日付、2行目に需要予測数、3行目に需要実績数を記載しています。4行目には需要実績数 - 需要予測数で求めた予測誤差を入力する計算式が入っています。つまり、需要予測を超える実績があった倍は予測誤差が正の数となっています。

安全在庫の概念

安全在庫の概念は安全在庫|一般的な考え方と予測誤差に基づく考え方の違いで詳しく解説しています。簡単に考え方を述べると、需要予測と需要実績のギャップを吸収するためにあるのが安全在庫です。

より厳密に言うと、在庫がなくなり欠品を起こす可能性を、許容範囲に抑えるために、需要をまかなう分に追加して保有するのが安全在庫です。よってどの程度の欠品を許容するかによって必要な安全在庫は異なります。食品など保有できる在庫期間が短い商品は売れ残りによる廃棄リスクと欠品リスクを天秤に掛けた安全在庫設定が必要となります。

これが安全在庫の概念です。

予測誤差に基づく安全在庫の概念

いよいよ予測誤差に基づく安全在庫の考え方について解説します。従来の安全在庫は需要の変動に応じて安全在庫を求めようとします。需要の変動が大きいほど欠品リスクが高いと考え、需要変動が大きいほど安全在庫を持とうとします。

しかし、エアコンやビールのように季節性のある商品の需要を一年を通して見てみると、需要の変動幅は季節によって大きく変動があるものの、毎年同じような需要変動をします。

このような商品の需要予測の精度が高くなります。その結果、需要変動は大きいが需要予測精度が高い為、安全在庫は少なくて済む、という事がおきます。

そこで、需要予測の誤差が大きい程多くの安全在庫が必要と考え、需要予測の変動幅ではなく、需要予測の誤差を元に安全在庫を計算しようとするのが予測誤差に基づく安全在庫の考え方です。

どうやって需要予測の精度を評価するのか

それでは需要予測の精度はどのように評価すればよいのかについて考えていきます。

需要予測の精度を評価するには予測誤差のバラつきという概念を使う

項目名の通り、予測の精度を評価するには誤差のバラつきという考え方を使います。

これは、需要予測が妥当である場合、需要実績は需要予測を中心に正規分布すると言う仮定に基づきます。

時をかける少女のように、同じ場面を何度も繰り返して需要実績を何度も測定すると、需要予測と数値がぴったりなケースを最頻値としては需要予測と数値が離れるほど、そのズレ具合の出現頻度は下がると考えられるのです。

この釣り鐘形のバラつき具合が大きい程、予測誤差が大きいと評価します。

需要予測が妥当な場合、誤差が0を中心とする正規分布となる
需要予測と需要実績の誤差の分布

予測誤差のバラつきを計算する

それでは実際に予測誤差のバラつきを計算していきます。需要予測の精度を評価するには需要予測が実績と比較してどのようにばバラついているかを計算します。需要予測に対して需要実績が多い場合もあれば少ない場合もあります。バラツキを知るためには、標準偏差という値を求めます。

まず予測誤差の平均を求めます。4行目が予測誤差でした。14日分の予測誤差の平均を求めます。それを表の五行目に記入しました。

次にそれぞれの日付の予測誤差と予測誤差の平均の差を求めます。これで、予測誤差の平均からどれくらい離れているかが分かります。

次にばらつき具合を合算した求めたのですが、需要予測が多めに外れたのと少なめに外れたのが相殺すると正しくばらつきが計算できないため、ばらつきの値を2乗する事によって符号をプラスに揃えます。

その二乗した値を全て足したものの平均を求めます。このあたいを分散と言います。先ほど2乗してから足し算をしたために単位(次元)が個の2乗という訳の分からない単位になっているので、平方根を求めます。これが標準偏差です。

ここまでの計算の結果を表にしたものは下記の通りです。

誤差のバラつきを計算することで需要予測の精度を表現することができる
需要予測の精度を求めるために誤差のばらつきを表す標準偏差を求めた

計算方法は長くなってしまいましたが、毎回同じ計算方法なのでエクセルで計算式を入れておけば、需要予測を予め入力しておけば、需要実績を更新するだけで自動的に標準偏差を求めることができます。

求めた予測誤差に基づく標準偏差をもとに安全在庫数を計算する

それでは実際に安全在庫を求める公式に当てはめて安全在庫数を求めます。安全在庫を求める公式は従来の需要実績の変動から求める安全在庫の公式と同じです。

この公式は従来の需要変動を元にする安全在庫でも予測誤差に基づく安全在庫でも同じ
安全在庫設定数を算出する公式

安全係数は電卓で計算することはできないため、早見表を利用します。欠品の許容率は5.0%をよく使うので、この値だけは覚えておくと便利です。

欠品許容率5.0%の時の安全係数k=1.65

仮にこの品目のリードタイムが10日だとします。リードタイムは発注間隔と輸送リードタイムの合計、つまり発注してから入庫するまでの期間のことです。例えば、毎週月曜日に発注し、入庫するのが翌週の木曜日であればリードタイムは10となります。

Is = 1.65 x 5.69 x 3.16 = 約 30個

つまり、今回の例では、30個の安全在庫を持っておけば95%の確率で欠品にならずに済むと言う事が言えます。実際に持っておくべき在庫はリードタイム期間中の需要をまかなうのに必要な分と安全在庫の合計です。例えば、現在から向こう10日、毎日35個の需要があると予測を立てるのであれば、35個/日 x 10日 + 30個 = 380個 となり、380この在庫を持てば良いことになります。なので次回の発注は現在の在庫と380個の差分となります。380個まで補充すれば良いわけです。

エクセルで出力する

当たり前のことですが、ここまでの手順を毎回電卓で計算するのは大変です。エクセルで計算式を入れておき、自動でいくつまで在庫を補充すれば良いかが求まるようにしておきましょう。発注時点で何個まで補充するのかと現在の在庫数の差分を出して、発注数量が求まるようにしておくとさらに便利ですね。

予測誤差に基づく安全在庫の算出方法まとめ

この記事の内容をまとめると下記の通りです。

  • 一般的な安全在庫の考え方は需要実績の変動を元に計算する
  • このブログでは需要実績の変動ではなく、需要予測と需要実績の誤差に着目して安全在庫数を算出することを推奨する
  • 需要予測の精度を評価するには標準偏差というバラつきの概念を利用する
  • 予測誤差のバラつきとは時をかける少女のように、同じ場面を何回も繰り返した場合の誤差の分布のことである
  • 実際には同じ場面を何度も繰り返すことはできないので、過去の実績でその誤差の分布を求めることになる
  • 安全在庫を求める公式は従来の安全在庫の求め方と予測誤差を元にした安全在庫で同じで、違うのは標準偏差の部分のみである

以上、的確な安全在庫指標を採用し、意味のある、適正安全在庫レベルを求められるようにしましょう。

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