この記事は業務改善の文脈で使われる標準化について解説します。統計学やデータ分析の分野で使われる標準化ではありませんのでご注意下さい。
目次
標準化の概要
標準化は文字通り、「標準にする」と言う意味ですが、標準とは何を指すのかによって意味が異なります。特に標準化と言った場合、統計学と業務改善の文脈で使われる事が多いようです。この記事は業務改善の文脈で標準化という言葉が使われたときの意味について説明します。
業務改善における標準化とは作業を手順としてまとめ、誰でも再現できるようにすることを表します。標準化が適用される範囲は広く、工場や倉庫といった生産、物流の現場から小売業の店舗、バックオフィスでの作業などあらゆる職場で見られます。
標準化の例
標準化のイメージが掴みやすいように代表的な3つの例を挙げて説明します。
工場の生産工程における標準化
工場では製品を製造します。製造するための手順を記した作業手順書が必ず存在します。もろに作業標準書と言ったりもします。機械の操作方法の手順などが記述されています。工場は手順を守ることが品質に直結するため、常に最新版の手順書を使う必要があります。きちんとした工場では手順書は個人でプリントアウトすることは禁止し、現場に備え付ける手順書には連番を振るなどして配布と改修を確実に行う事ができるようにしています。
個人でプリントアウトすると、手順が改定されたときに古い手順書のまま作業してしまう可能性があり、最新版が行き届いていることを担保できないからです。
なお、作業手順書には参照しながら作業を行うものと、覚えて作業中には参照しないものの2つがあります。
小売業の店舗における標準化
小売業で接客や商品の陳列をする業務にも手順書はマニュアルとして存在します。接客業では製造現場と異なり手順書を参照しながら作業するものは多くありませんが、マニュアルが存在しないわけではありません。現場でマニュアルを参照できない業務の場合は教育によって手順の内容を定着させていく事となります。
慣れによる手順の省略が置きやすいため、ある程度の期間ごとに研修やトレーニングと言った教育機会を設ける必要があります。接客業のばあい、後述の通り、全てをマニュアル化する事はできないため、とっさの機転や対応が重要となる場合があります。そのため、過去の成功事例やマニュアル化できないコツや心構えなどはベストプラクティスとして事例集などにまとめて研修などで紹介し、作業品質を高める工夫が考えられます。
オフィスワークにおける標準化
オフィスワークにおける標準化も作業手順を記したものです。バックオフィスでの作業手順は紙ではなく電子データとして保存されている場合も多くあります。工場での紙による手順書の配布と異なり、電子データによる手順書の場合、配布部数の管理ができず、データ単体ではその手順書が最新版かどうか分かりません。そのため、手順書のバージョンを管理する必要があります。
標準化のメリット
標準化のメリットを説明します。
品質が安定する
標準化の目的とも言えるメリットです。作業の内容定め、作業員に手順書に沿った内容通り作業させることにより、誰が作業を行っても同じ結果にする事ができます。作業手順が明確になり一つ一つをこなすことにより作業手順のもれや間違いがなくなるため作業員間の作業品質が安定します。
欠員や組織変更に強くなる
手順書で手順が定められており、それが適切に運用されると言う事は、経験や勘、個人で編み出したコツのようなものが作業手順に入り込まない事を意味しています。作業手順が個人の力量に寄らないため、誰でも作業を行う事ができます。これは病欠などで突然欠員が出ても手順書通り作業を行うことによって、作業を継続することができる事を意味しています。作業自体が止まってしまい、誰にもリカバリーができないと言う状況を防ぐことは、引き継ぎに掛かる時間を極小化する事につながります。
このことは、現場の作業改善と言った観点ではなく、組織の人材入れ替え柔軟に対応できる強い組織運営といった経営上のメリットにつながります。
作業効率が上がる
手順が定められていると次にどうするか迷う事がありません。そのため、余計な時間を使わなくて済、作業を短時間で終わらせる事ができます。
「プレゼンがある日は赤いネクタイをしていく事に決めている」、「ワイシャツはクローゼットの一番にかけてあるものを着る」といったような工夫をしている人もいます。これは作業手順を決めていると言う意味で標準化の一種です。着ていく服を迷う時間が省けており、作業効率改善につながっている例です。
業務改善がしやすくなる
標準化は業務改善にも役立ちます。標準化そのものが業務改善の一種ですが、業務改善そのものがしやすくなると言うメリットもあります。これについては下記の2つのポイントがあります。
- 改善点が見えやすくなる
- 自動化がしやすくなる
まず1点目の改善点が見えやすくなるについては、現状我欲分かると言うことに理由があります。現場での作業が手順書としてまとまっているため、移動の導線や作業手順の効率化のような検討を机上である程度検討できるようになります。しかし、現場の作業はしばしば手順書と乖離しています。その場合、手順書をもとにした業務改善案の検討自体が全くの無駄となります。まずは手順書の内容が何故守られていないのかの調査から入る必要があります。
2点目の自動化がしやすくなるは主に、バックオフィスにおける事務職のPC作業の自動化について言えます。手順が決められていれば自動化を図る際にその作業内容や意図が既に書かれているため、自動化ツールの仕様を決めるのに新たに要求仕様書を作成する手間が省けたり、参照する事により効率よく要求仕様を定めることができます。
標準化の注意点
標準化には回避しないとデメリットになってしまう注意点があります。回避可能なので、確実に回避し、標準化のメリットのみを享受するようにしましょう。
現場の作業者は改善の最前線。改善の風土を醸成する必要がある
標準化を推し進めようとすると、現場から反感を買うことがあります。目に見える形で反対されなくても、現場が内心不満を持っているようでは標準化はうまくいきません。また、現場で実際に行われている手順は手順書とは多かれ少なかれ乖離していきます。
何故、守るべき手順が存在するのにもかかわらず、その手順を守らないのでしょうか。それは面倒だったり手順書に記載されている手順に意味が感じられないからです。聞き取りをしてみると、最初のうちは手順書通り作業をしていたが、繰り返すたびに作業の無駄に気づき、よりよい方法を編み出して、自分なりにアレンジした作業手順で作業を行っているのです。
そして、ここが本質なのですが、現場がこのように思っている場合、その守られていない方の手順を標準とすることができないかを検討するべきです。現場から離れた責任者は、現場が手順書と違う事をやっていることは知りませんし、現場は「実は手順書を守っていません」などと言うはずがありません。
よって、作業者には改善案があったら提案をするように伝えます。そして採用されるかどうかは別として提案する事自体を評価するようにしましょう。そうすることで、改善案が個人のものとならず、横展開ができたり、手順書と実際の手順が一致することで、手順書が活きてくるからです。
作業者は改善の鍵を握るキーパーソンという意識を持ったもらうようにする事が重要です。現場の作業員は作業さえしていればいいというものでは決してありません。
標準化の手順
それでは具体的な作業の手順について説明します。もちろん職場によって適切な順序は異なりますが、大きく分けてふたつの考え方が存在するのでその考え方を紹介します。
業務設計から入る方法
ひとつめの考え方が業務設計から入る方法です。新たに業務プロセスや作業手順を構築すると言うが考え方です。既存業務で手順書を作成していなかった場合にもできるアプローチです。既存の手順を気にしない為、業務改善とセットで行う事ができるメリットがあります。この方法を成功させるためには、トップダウンで行う必要があります。その際、新たな手順を導入する意義について現場の理解を得ながら進む必要があります。
AI(人工知能)を取り入れた自動化などは、既存業務の延長では導入できません。新たに作業の流れを構築し、その作業に作業員が適用しなくてはなりません。こういった標準化を行うためには、ここで挙げた業務設計から入る標準化を採用する一択です。
現場の作業をマニュアルに昇華する方法
既存業務を標準化する方法のもう片方です。現場の作業員が主体となる為、モチベーションの向上につながります。日常的に行っている業務を標準とすることができないか、という視点を持つように促しましょう。