モノを取り扱う企業であれば必ずと言って良いほど避けては通れない在庫管理。今回は在庫管理の本質を解説した上で、計画の肝とも言える、PSIシートを紹介します。
製造と販売の連携がうまく回っていないとお悩みの方や、これから計画業務の設計を検討する方の参考になればと思います。
ご意見、質問があればコメント欄にお願いします。
目次
自作PSIシートで計画業務をうまくまわす
在庫管理の本質は在庫というより、需要と供給のバランスの管理にあります。在庫は需要と供給の差を埋めるためのものであり、生産(あるいは調達)をどう計画するかが本質的な課題です。
それではその本質的な課題についての考察や、課題を解決するためのPSIシートについての解説に入っていきます。
計画業務の本質は生産調達
計画業務の本質は、何を、いつ、何個、生産するか、です。究極的にはこれにつきます。
在庫を切らさないようにモノを送り込む。そのために必要な調達をどのタイミングでどれだけ行うのか。これが本質です。
需要予測も重要ですがそれは、生産調達をいつ、どれだけ行うのかの計算に必要なのであって、あくまで生産調達をどのように行うかが、究極的に解決すべき課題です。
ましてやツールやシステムの良し悪しは、本質ではありません。画面が見やすかったり、需要予測の手法に高度なアルゴリズムが使われていたりするのは、補完的な機能です。
受給管理シート(PSI)シートとは
ここまで、ツールを自作する意義と反対派の意見、需給管理の本質について見てきました。ここから具体的にPSIシートとはどのようなものかについて見ていきます。
PSIシートとは調達(入庫)、供給(出庫)、在庫の3行からなる需給管理の為のフォーマットシートです。下図の例をご覧ください。
上から順にP、S、Iに対応します。Pとは調達の事でProcurement、またはProductionの略です。供給は市場に供給することで、SupplyまたはSalesの略です。Iは在庫の事でInventoryの略です。
ここでは調達、供給、在庫と言っていますが、職場で普段使っている言葉に置き換えて読んで頂ければと思います。例えば、【生産、販売、在庫】や【調達、需要、在庫】と言っても問題ありません。
ポイントは入ってくる(入庫)、出ていく(出庫)、手元に残っている(在庫)、の3行があるということです。
PSIシートを自作する理由
この記事をご覧の方は調達や仕入れ、生産計画の効率化に関心があると思います。まずはERPの導入の前にPSIシートをエクセルで自作しようとする理由を整頓しておきます。
- ERPは導入が高価で保守メンテナンス費もかかる
- システムの保守メンテナンス期間が終了すると、新たな契約を結ぶか新たなERPを導入しなくてはならない
- 業務が変更などに伴いシステムをカスタマイズすると高額の改修費用が発生する
- システムの管理部門が必要となる
以上のように、ERPと呼ばれる基幹システムを導入するには多額の費用が掛かります。SAASというインターネットを通じて利用できるサービスの場合、既存システムを利用するので、買い切り型のシステムを導入するよりはるかに低コストでメンテナンスにも費用が掛からずに済むのでお勧めです。
しかし、さらにお手軽な方法として、目の前にPCがあるならその中にすでに組み込まれているエクセルがあるではありませんか。これを使わない手はありません。
エクセルであれば保守メンテナンス費用も掛かりませんし、専門のメンテナンス部隊も不要です。エクセルの仕様は数年に一度しか変わりませんし、基本的には広報互換性があるので、エクセルのバージョンが変わっても引き続き利用することが可能です。
さらに、規模が大きくなるなどして、将来的にSAASを利用することになったとしても、同様の機能をエクセルで作ったことがあるのであれば、どのようなシステムを導入したいのか、要件がはっきりした状態で、利用するSAASを検討することができます*1。
このように、システム導入ありきではなく、改善を図るのであれば、まずは目の前にあるエクセルでやってみるというのが、PSIシート自作しようとする理由です。
エクセルによる計画の立案が目の敵にされる理由
前項で、まずはエクセルでPoCを作成する理由をまとめました。エクセルでツールを作る事を嫌う人がいることも事実です。この人たちの意見も一理あるので、実際の作業に入る前にエクセル反対派の意見もよく理解しておきましょう。エクセル反対派の意見は下記の通りです。
- 「神エクセル」と揶揄される複雑な計算式が組み込まれたエクセルが出来上がる
- エクセル職人しかメンテナンスできないツールが出来上がる
- 基幹システムとは別にエクセルを開かなくてはならない
大きく分けて上記の3つが挙げられると思います。上の2つの根っこは同じで、属人性を高めてしまう恐れがあるということです。属人性とはある人に依存する度合い、という意味で、業務改善や自動化とは切っても切れない関係にある概念です。
つまり、ある便利ツールやエクセルシートを作成すると、そのエクセルを作った人しか使いこなせなかったり、メンテナンスができなくなるのではないか、という懸念です。
これに対する私の答えは、「そんなこと言ってたら、今までみんなが使ってたエクセル作業のファイルなんて全部属人化そのものですよ。あなたの作業後のエクセルファイルなんてあなたしか理解できませんよ」という感じです。
むしろエクセルをツールやシステムあるいはデータベースとして使うことによって、フォーマットが定まり、属人性は低下します。
3点目の「基幹システムとは別にエクセルを開かなくてはならない」は前者に比べてレベルの高い指摘です。もともと、ERPに需要予測や在庫管理の機能がついており、計画業務をそのシステムだけで完結できるのであれば、むしろエクセルは使うべきではない可能性が高いです。
しかし、それはすでに高額なERPが導入されている場合であり、今回の読者の想定からは外れます。(しかし、せっかく高額なERPが導入されているにもかかわらず、結局エクセルで計画業務自体は作業しているという場合も多いです)
エクセルで自作する手順
PSIシートの構造と、PSIシートを自作する意義が分かったので、実際にPSIシートをエクセルで作成してみましょう。まずはP、S、Iの3行を作ります。
次に入庫と出庫と在庫の関係の式をいれます。前の在庫に入庫の数字を足して、出庫の数を引き算すればOKです。
数字を入力するのは調達と供給の部分です。在庫は月初の2020/2/1の部分のみ入力しています。供給の欄は需要予測を入れます。販売数量予測と言ってもよいでしょう。調達の欄には入庫予定のタイミングに入庫したい数量を入れます。月初以外の在庫数は計算で求めています。
前の在庫に入庫数を足して供給数を引いた数が次の在庫数になっていることを確認して下さい。このシートを作れば、供給としておまかな需要予測数があれば、どのタイミングで何個の調達を行う必要があるのかを求めることができます。
これがPSIシートの目的であり、計画の本質である「いつ、何個」生産(調達)すればよいかという問題を解くことができます。
少し工夫して便利にする
計算式が入っていればPSIシートとしては出来上がりですが、VBAで少しさわってあげればより便利に使うことがで切るようになります。工夫できる点としては下記のような点が考えられます。
- 計算ボタンでPSIシートを更新するようにする ⇒ エクセル内に式を残さなくて済むようになる
- 在庫切れ見込みから調達数量を求める
- 上記、調達数量から注文書や製造指図書のようなフォーマットを出力する
まとめ
この記事の内容をまとめます。
- 需給管理の本質的な解決はツールの良し悪しではない
- 需給管理を改善するには高価なERP導入を見当する前に、エクセルでPSIシートを作成せよ
- エクセル反対派の意見も知った上でツールを作成する
- エクセルでPoCを作成することは、SAASの利用を見当するときにも役立つ
- PSIシートはたったの3行。まずは自分で作ってみる
- VBAが少しできるなら、自作のPSIシートに少し手を加えるだけで立派にツールとして使えるものになる
以上、まずはエクセルでPSIシートの作成。コストゼロで気軽に取り組める改善から取り組んでいきましょう。
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*1:仮のシステムを試しに作ってみて、自分たちの達成したいことができるのか、どのようなシステムを作るべきなのか、狙った効果は得られるのか、などを検討することをPoC(ピーオーシー、またはポック。Proof of Concept)といいます。