ゆんの業務改善ブログ

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安全在庫|従来の考え方と予測誤差に基づく考え方の違い

供給数、つまり需要数が予想より多かったり少なかったりすれば必要な調達数は変わってきます。しかし、調達数も調達タイミングもそう簡単に買えることができるものではありません。今回は、需要変動に対応するための安全在庫と言う考え方について解説します。

目次

安全在庫の考え方

【在庫管理】PSIシートから調達数量を求める簡単な考え方で入庫数を求める方法を解説しました。この方法は供給予定数通りに在庫が減っていったときに、どの程度の数量を補充すれば良いかと言う計算方法でした。計画的に在庫を払い出せるのであれば問題ありませんが、小売業などでは供給量は需要によって変化するため、在庫が当初の想定より早く無くなったり、減る速度が遅く、在庫が余り気味になったりすることがあります。今回はそのような需要の変動に対応する安全在庫の考え方について考えていきます。

供給見込み(=需要予測)と実績値の差を吸収するのが安全在庫

下のPSIシートはある日(第1日目)に在庫が100個存在し、毎日10個ずつ供給(=出庫)した時のものです。

10個ずつ払い出されていくPSIシートの11日目まで
100個の在庫が10個ずつ払い出されていくPSIシート

このPSIシートの在庫数量をプロットし、グラフにしたものが下の図です。

初日に100個の在庫があり、毎日10個ずつ在庫が減少したときの在庫推移グラフ
在庫推移グラフ

現在は1日目が終わったところで、明日からの在庫数量予測だと思って下さい。今、在庫が100個あって、無効10日間の需要は毎日10個という予測を立てているという状態です。

そして、10日後(=11日目)が終わったときに、在庫の推移を検証することにしました。蓋を開けてみると、日々の供給数が15個と需要予測を上回る在庫の払い出しがありました。このときのPSIシートは下記の通りとなります。

在庫が0以下になるまでの期間が短くなっている。
日々の供給量(出庫)が15個だった場合のPSIシート

供給実績が需要予測を上回り、予定より早く欠品した
供給実績が需要予測を上廻った場合の在庫推移グラフ(オレンジ色のグラフ)

この場合は7日後(=8日目)で在庫が0となり、10日後(11日目)には50個の欠品となっています。安全在庫とは、このような需要予測違いに基づく欠品を防ぐ為のものです。

結果論ですが、この場合、あと50個余分に持っていれば、10日後まで欠品することはありませんでしたので、50個の安全在庫を持つべきだったと言えます*1

結果論ではなく、調達数検討のための安全在庫を計算で求める

前項までで安全在庫の考え方が分かりました。それは、需要予測数量と実際の供給数量のギャップを埋めるという考え方でした。しかし、前項では結果論で、あといくつ持つべきだったと分かっただけです。これでは将来の調達数の検討には役立ちません。そこで、今回は過去の需要予測の精度から安全在庫を求める方法を考えます。

過去の需要予測と供給実績がどのぐらいずれていたか、と言う考え方

もし私たちが神様で、全ての商品がいつ、何個の需要があるかを完璧に分かっていたとします。その場合、需要予測と供給数量に差は無いため、安全在庫はゼロでOKです。つまり、次回の入庫計画までの日々の需要予測の数量の合計数だけ在庫を持っていれば良いわけです。

このように需要予測と供給数の差をまかなえれば良いので、これまでの経験から言って>どれくらい需要予測が外れて供給数と差が出ると予想されるのかを求めればいい、と言う事になります。これが大事な考え方です。

安全在庫数を求める計算式

前項で考え方が分かったので具体的に計算していきます。
需要予測と供給数がどのぐらいズレるハズかは次の計算式で求めることができます。

安全在庫は安全係数と標準偏差とリードタイムの平方根の積で求められる
安全在庫数を求める公式

計算式が出てきたので身構えてしまった方もいるかも知れませんが、実務で使う上では雰囲気を理解すればOKです。Isというのは今回求めたい安全在庫数量です。在庫を意味するInventoryと安全を意味するsafetyの頭文字をとってIsとしました。kは安全係数という数値です。後ほど説明しますが、大きいほど安全つまり欠品になりにくいパラメータだと思って下さい。なお、パラメータとは自分で設定する数値です*2。σは標準偏差という数値でばらつきを表す数値です。これも後ほど説明します。tは補充から次の補充までの期間です。

ざっくり言うと、

  • 欠品しにくい程、
  • 需要のばらつき(あるいは誤差のばらつき)が大きい程、
  • 補充から補充までの期間が長いほど、

沢山の安全在庫が必要である、と言う事です。これくらいのざっくりした雰囲気で捉えておけばOKです。以下、kとσについて解説します。

安全係数k

安全係数とは高ければ高いほど欠品しづらいパラメータです。例えばある期間に在庫がなくなって欠品になってしまう確率が5%なら1.65、1%なら2.33となります。ここで欠品になってしまう確率と言われてもピンと来ないかも知れません。

時をかける少女という小説、またはアニメがあります。あの作品のように同じ場面を何度も繰り返し体験できるとして、100回繰り返したときに需要量が在庫量より多く欠品になってしまう確率を欠品率と言います。その数値が上述の確率です。

標準偏差に関する一般的な解説

当然のことながら、この記事の読者の皆さんは安全在庫の求め方や考え方について一般的ないわゆる正しい考え方を知りたいはずなので、まず、それを解説します。

需要は変動するものであり、ずっと同じ需要数量が維持されることはありません。しかし需要の変動幅が小さいものもあれば大きいものもあるはずです。需要の変動が小さければ欠品になる確率は低く、需要の変動が大きければ欠品になる確率は高くなると考えます。

そこで、過去の需要実績(欠品がない場合は供給数の実績)の記録をみて、その変動の大きさを求めると言う考え方が取られます。

言い方を変えると変動のある過去の需要の実績の真ん中を取った場合、多い方にも少ない方にも同じくらい過去の実績が分布しているはずです。そしてそのばらつきが大きいほど需要変動が大きく大きな安全在庫が必要と考えます。

需要実績の変動は正規分布に従うと言う前提
需要実績の変動は正規分布に従うという図

これをグラフにしたものが上の図です。需要実績のど真ん中の数値が真ん中です。縦軸は件数です。真ん中当たりの需要実績数の件数が最も多く、それより需要が大きければ右側、少なければ左側に分布し、だんだんと真ん中の値から離れるほど件数が少なくなっていきます。

たとえば需要実績の真ん中の値が100個だとすると、90~110個の需要実績は何十件もあるが、20個や180個といった需要実績は数件しかない、というような感じです。

需要変動が少なく安定した需要の商品ほど、この釣り鐘型のグラフがとがった形になります。とがった形なほど需要変動が少ないため、安全在庫が少なくて済むという考え方です。この需要変動具合が今後も続くという前提のもと、安全在庫の計算式に当てはめて求めていきます。

このブログで提唱する、予測誤差に基づく安全在庫の考え方

前項が一般的な解説です。私がインターネット上で検索して調査する限り、安全在庫に関する解説はすべて、需要実績の変動に基づいた標準偏差を求め、安全在庫数を算出しています。

しかし、この記事では需要変動は安全在庫と無関係であるという立場を取りたいと思います。再度述べますが、この考え方は一般的ではありません。あくまで私の個人的な提唱です。一般的な考え方は前項の通り、需要予測の変動に基づく標準偏差を使います。それでは、具体的にどう考えるかの解説に移ります。

まず、もしあなたが神様のように将来を完璧に見通す能力があったと仮定します。その場合、需要予測が完璧になる為、どんなに需要が変動しようとも、完璧な供給計画を立案することができます。需要予測と同じ数量を入庫させれば良いだけだからです。この場合、需要予測が外れることがないため、安全在庫はゼロで良くなります。

つまり、需要予測を行い、需要実績との差を比較していけばどの程度の需要予測の精度を取ってきたかが分かります。この、需要予測と需要実績の誤差のばらつきを安全在庫に活用しよう、というのがこのブログの立場です。

これまでどの程度の精度で需要予測を行ってきたかが分かれば、今後も同程度の精度で需要予測できると仮定して安全在庫を求めることができます。

実際の計算は過去の需要予測と需要実績の差を利用するのですが、概念的には先述の時をかける少女の考え方を使います。

時をかける少女のように何度もその需要予測と供給量の検証をすると需要予測が妥当な場合、需要予測と供給量の差異の分布は正規分布のグラフを描くことになります。下の図をご覧下さい。

正規分布に従う需要予測と供給量の差異の分布
需要予測が妥当だった時の需要予測と供給量の差異の分布。正規分布となる

グラフ自体は同じものですが、今回は横軸の意味合いが異なります。真ん中が需要予測と供給数がぴったり一致した所です。妥当な需要予測ができていれば、需要予測と供給数が一致する部分の件数(時をかける少女のように同じ場面を何度も繰り返した場合の件数)が理論上一番多いはずで、外れれば外れるほどその件数は少なく分布するものとします。

先ほどと異なり、需要予測と需要実績の差が少ない、つまり需要予測精度の高い商品ほどこのグラフは鋭利になります。さて、このグラフを積上げグラフにしてみます。どういうことかというと縦軸の件数の累積グラフをこのグラフに重ねてみます。

正規分布と累積分布関数を重ねて表示すると95%の位置が大体分かる
累積件数のグラフを重ねた。需要予測が需要実績を上回るのが95%の位置を求める

青線が需要予測と需要実績の差異の分布です。一つ前のグラフと同じですが、累積のグラフと重ねたので小さく見えています。そしてオレンジ色の線が青線の累積を表しています。累積のグラフを描画することで、95%の位置が分かりやすくなりました。赤太線を記入した部分です。

これは何を意味しているかというと、需要予測が需要実績を上回っていれば、それは欠品にならないので、全需要予測と需要実績の差異のうち件数ベースで下から95%を網羅する部分までを拾ったと言うことです。

需要予測は誤差が出て当たり前という前提の元、その差異が95%に収まる様な安全在庫を持とう、等位考え方です。ちなみにこの方法で計算すると9割以上の品目が、一般的な安全在庫の考え方で求める安全在庫数より少ない安全在庫数となります。

そして、これは私の私見ですが、一般的な方法で求める安全在庫数は経験的に数量が多くなりがちだと感じています。よってこの計算方法でうまく廻ると考えています。

*実際に適用して損害が出た場合の責任は負えませんので、この考え方を採用する場合は自己責任で、しっかり検証を行ってから実施して下さい。

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*1:今回は安全在庫の考え方にフォーカスしているため、このような書き方をしていますが、本当は50個の安全在庫を持つべきだったとは言えません。なぜなら需要予測が外れすぎなので、そちらを改善すれば,より少ない安全在庫で済むはずだからです。

*2:どのようなkを設定するかは経営判断です