KPI(重要業績評価指標)を適切に設定することが経営目標の達成につながります。今回は経営目標としてメジャーなROAの考え方を解説します。
経営指標とは
今回はROAという経営指標を取り上げますが、その前にそもそも経営指標とは何かについて簡単に説明します。
経営指標とは会社の状態を表す財務指標
経営指標とは会社の状態を示す指標です。大きく分けて、収益性、効率性、安全性の3つがあります。平時であれば収益性や効率性が求められ、不況下などでは安全性が高い方が好まれます。3つの切り口の概要を簡単に述べると以下のようになります。
- 収益性
手持ちの資本でどれだけの利益を上げられるか。
- 効率性
手持ちの資本でどれだけの売上を上げられるか。
- 安全性
どれだけ経営が安定しているか。現金収入が途絶えた場合にどれくらい持ちこたえられるか。
このように企業の状態を表す指標となっており、株主はこのような指標を分析することで投資先を決めるなどしています。
経営指標は経営陣だけのモノではない
この解説記事で最も大切な事に触れます。それは、前項で述べたような経営指標は会社幹部や株主などだけのモノではない、と言う事です。一人一人の会社員が作っているモノだという事です。
このことがピンと来ないと言う事は、会社の目標である経営指標を適切に部門や個人の目標にブレイクダウンできないと言う事です。以下、会社の経営指標を部門や個人の目標に適切に落としていく方法について解説します。
KGIとKPI
会社で経営方針に挙げられるような経営指標のことをKGIと言います。KGIはKey Goal Indicatorの略で、重要目標達成指標を意味します。例えばROA5%以上を達成すると言う事が経営目標、安定的に利益を上げていく体制の構築が経営方針と言う事であれば、KGIはROA5%と言う事になります。ROAそのものの説明は次項で行います。
一方、KPIとはKey Performance Indicatorの略で重要業績評価指標の意味です。KPIが意味するところはKGIのブレイクダウンです。ROAは当期純利益を総資産で割った値です。よって、ROAを高めるためには純利益を増やすか、総資産を減らすかのどちらかが有効であると言えます。分子に着目すれば、純利益を増やすことが有効なので、売上を増やし、経費を減らすことがROAを高める事につながります。
そして、さらにブレイクダウンすると自部門が担当する製品がAだとするとAの月間販売数量を高めたり、原材料費率を下げたりと言うことがROAに貢献することとなります。個の部門ごとに落とし込んだ月間販売数量や原材料費率がKPIに当たります。
つまり、KGIを部門ごとの目標までブレイクダウンしたものがKPIであると言えます。
ROAとは何か
ROAとは当期純利益を総資産で割った値で単位は%です*1。ROAというKGIをKPIにブレイクダウンするに当たり、ROAの意味合いを解説します。
ROAの定義と捉え方
そして、年間50万円の純利益を上げる事ができればこれが分子となり、ROAは10%となります。純利益は自分への給料や仕入れ値、水道光熱費を除いた利益から税金を払って残った本当に手元に残ったプラスアルファのお金*3です。
ROAの定義の式を書き換えると以下のようになります。
ROAを2つの指標のかけ算で表現しました。前半部分は売上高に対して当期純利益がどれくらいかという指標なので収益性を表しています。どれくらい儲かるビジネスをしているかと言う事です。
後半部分は売上高を総資産で割っています。これは、用意した手元資金の何倍の売上を上げられているかと言う事を意味しています。沢山お金を使って高級パソコンと社長の机で作業して100万円の売上を上げるより、最低限の機能のパソコンと机で100万円の売上を上げる方が、売上が同じなら資本の使い方の効率が良いと言うことになります。よって後半部分は経営の効率を示しています。
このようにROAは経営指標の3つの切り口である、収益性、効率性、安全性のうち収益性、効率性の2つに着目した経営指標であると言えます。
ROEとの関係
ニュースではROAよりROEの方を良く聞きます。これはROAの計算式の分母である総資産を純資産にしたモノです。銀行から借りてきたお金は含まず、自分で用意したお金と株主から集めたお金だけを分母にしています。株主は自分が出資したお金がどう使われているのかに関心があるため、銀行からの借り入れを抜いた分母である純資産の方が都合が良いのです。
しかし、そうすると銀行から借り入れをどんどん増やして売上を拡大させ、株主からのお金は余り集めないようにすればROAは同じか下がっているのにROEは高くなると言うようなことが起きえます。私見ですがこれは健全ではないと考えます。よってこの解説記事ではROAを経営指標として取り上げます。ROAが上がった結果としてROEも上がると言うのが健全だと考えているからです。
ROAをKPIにブレイクダウンする
それでは具体的にROAをKPIにブレイクダウンしていきます。今回は製造業や飲食業など幅広い業種で関連するロジスティクスにおけるKPIにブレイクダウンしていきます。
ロジスティクスKPIに落とし込む例
もう一度ROAの式を掲げます。
ROAを求める計算式の分子に利益率があります。利益は売上と経費の差で計算できます。売上高は価格と売上数量の席で表せます。これをさらにロジスティクスKPIに落とし込むことを考えます。すると、この部分はサービスレベルと物流コストに分解されます。サービスレベルとは顧客要求に対して欠品を起こさずに商品が提供できる割合です。欠品を起こすと売れないので売上高に影響を与えるという側面からの指標です。
販売機会は顧客との接点を高める事ですので、特売や広告宣伝などの販売戦略立案部門によるKPIとなります。例えば、来店者数や入場者数といった指標です。サービス率はその後、売上に結びついた率です。満席でチケットが販売できなかったり、在庫が足りないとサービス率は下がることになります。在庫との兼ね合いもありますので、サービス率は高ければ高いほどよいというよりは、95~97%を目指すなど、ある程度の高さの範囲内にある事を目指します。100%にしようとするととても沢山の在庫を構えなくてはならなくなり、賞味期限などがある商品の場合は廃棄が大量になってしまう可能性があります。93%がいいのか、95%がいいのか、97%がいいのかは経営方針によります。
つぎに経費の部分に着目します。ロジスティクスに関する経費は様々なものがあります。物流コストとして主なKPIは以下の4つが挙げられます。
- 輸送コスト
- 倉庫保管コスト
- 荷役コスト
- 包装コスト
これらが各部門でKPIとなりうる指標です。各部門がKPIを達成する事によってKGIであるROAに貢献するイメージがわくでしょうか。さらにここから個人レベルの目標にブレイクダウンすることで社員のモチベーションにつなげていきます。
輸送コストであれば、緊急出荷比率や需要予測精度と言った指標が影響するのでそれぞれの担当者の活動が指標に現れていくことが分かります。このように自分の担当している業務の一つ一つが業績に影響し、会社に貢献していることがわかるようなKPIの設定をすることが重要です。
KPI設定のためのROAの考え方まとめ
この記事の内容をまとめると以下のようになります。
- KGIをブレイクダウンしてKPIにする
- KGIは経営方針となるような目標指標で、例えばROAが挙げられる
- ROAは利益と総資産で計算される
- 利益に関しては売上に関するKPIと経費に関するKPIに分解する
- ロジスティクスKPIなど部門ごとのKPIに落とし込む
- 部門KPIはさらに従業員一人一人の目標値や業務内容が影響を与えるレベルまでブレイクダウンする
適切なKPIを設定して、従業員一人一人が業績に影響を与える実感がわくような目標設定を行う事で、業績に貢献していきましょう。